「自社内に、営業といふものありて、技術者を僻地へ飛ばさんとす」

と人の言ひけるに

「自社ならねども、現場にも、えすいーが技術を捨て、営業に成りて、技術者を飛ばす事はあんなるものを」

と言ふ者ありけるを、

うぇぶあぷりとかや、開発しけるえすいーの、えふ系の辺りに派遣されたるが聞きて、

案件に空きが出ぬ様心すべきことにこそと思ひける比しも、

或案件の納品が終わり、たゞ独り空きができ家に帰りたるに、

携帯の着信にて、音に聞きし営業、あやまたず、小声でふと話し出し、

やがて流れのままに、海外案件とか言はんとす。

肝心も失せて、断わらんとするに理由もなく、

口では敵わず、携帯越しに頭を下げて

「助けよや、営業よやよや」と叫べば、

寝室より、灯りをつけて妻が走り寄りて見れば、泣きそうな顔をした夫なり。

「こは如何に」とて、背中に手を当てたれば、

携帯の通話は切れて、袖・襟などのところどころが、涙に濡れぬ。

稀有にして飛ばされることになりて、翌々日には飛行機に乗りけり。

海外案件の、嫌がらんも、立場を知りて、従いたりけるとぞ。