前書き

政治モデルの発展には競争評価手法の発展が不可欠だと言われている。

政治は法令で企業の独占を禁止していながら、自らは独占(競争がない)状態に陥ってしまうケースがしばしば見られる。正しい競争が行われない環境では、効率が悪い制度や不自然な習慣が長く残ってしまうなどの弊害が発生することが広く知られている。

また、現状の政治がうまくいっているかどうかを確認する適切な評価体系がなければ、評価が漠然としたイメージで行われることになり、政党間の適切な競争が阻害されることとなる。

今回説明する三層分離モデル政治のオープン化(通称、オープン政治)はこの2つの要素のうち、適切な競争の実現に有用だとされている、比較的新しい政治モデルである。

@Date 2012/04/01

政治における三層モデル

政治における三層はしばしば、以下の図によって表される。

政治における三層

軍事外交などの国ごとの競争が保証されている分野は、国層によって管理される。

他国との直接的な競争が発生しない(国層によって管理されると独占が危惧される)分野は、地方層によって管理される。警察教育などは地方層の管轄となる。

地方層が管轄する分野は国は一切管理を行わない。そのため、地方層の管轄分野は国全体への横の繋がりを持たないことになる。地方層同士の政策の横展開が求められた場合は、地方層同士が交渉した上で協調して執行する。この点は三層モデルにおいてボトルネックとなりやすいポイントとして知られている。

政府の指示で地方層に政策が展開されることをマスター型、地方層同士の協議によって政策が展開されることをP2P型と呼ぶ。

国層は必ず1つの国に1つだけ存在するが、地方層は必ず2つ以上存在する。また一口に地方層と呼ばれてはいるがその内部は下図のように階層化されている。

地方層
※「区」は存在しない場合もある

この図は地方層参照モデルと呼ばれており、テストなどでもよく出題される。州や県などの各部位は地方レベルと呼ばれる。

政治サービスは可能な限り下層(図では右に行くほど下層になる)の地方レベルが担当すべきだとされている。そうすることで住民が移動可能な範囲の近隣で競争が起こることになり、政治レベルが向上しやすいからである。

一部の行政サービスは、住民が申請すれば自身が所属する市区町ではなく、近隣の市区町のサービスを受けることができる。教育サービスなどは、レベルが高い近隣に市区町のサービスを選択するケースが目立つ分野である。

住民が他の地区のサービスを選択した場合、その住民が支払った税金の一部は選択した市区町の取り分となる。その為、不人気な地区は税金が回らず廃業するケースも存在する。廃業時は、会社の倒産と同じくその地区で勤務していた公務員は職を失うことになる。

行政地区が潰れた場合は、近隣の支持率の高い地区に併合される。併合により1つの地区が大きくなり過ぎた場合は適宜分割が行われる。

このように三層モデルにおける地方層の競争はかなりシビアなシステムになっている。

サービス層

国層と地方層の他に、もう1つの層が存在する。それがサービス層だ。

サービス層は全国に施設を持つ必要がない、土地に縛られる必要がない行政サービスを担当する層である。

年金保険などはサービス層に所属する代表的な行政サービスである。

サービス層が担当する行政サービスは、選挙ではなく国民の選択によって競争が担保されている。

たとえば保険であれば、高いレベルの医療が保証される代わりに高額の保険料が必要になるタイプや、最低限の治療が行われ保険料も安い代わりに高額医療が必要になった場合はケアされないタイプなど、複数のサービスが用意される。

これらの保険サービスは各々が独立して運営されており、地方層の時と同じく支持が得られなければサービスは廃止されることになる。

サービス層

国層や地方層が受け持つ必然性がない全ての行政サービスはサービス層が担当することになる。

サービス層におけるオープン政治

オープン政治とは、名前の通り、オープンな政治である。

OGF(Open Governments Foundation)によると、オープンな政治はこう定義されている。

  1. 誰でも政府を設立できること
  2. 誰でも政府の運営に参加できること
  3. 誰でも自らが所属する政府を選択できること

この概念はソフトウェア業界におけるオープンソースソフトウェア(OSS)を参考にして考案された。

OSSの世界では、誰でもコミュニティを立ち上げることができる。その代わり、周囲の人々の支持を得られなければ、参加者も利用者も集まらない。

政治においてもこのような、人々が参加し、支持される行政が自然と生き残り、逆に支持されない行政は自然と淘汰される体系を作ろうと考えたのが、オープン政治の始まりである。

当初は机上の空論だとされていたこの概念だが、政治を三層に分離し、オープン化する行政サービスをサービス層に限定することで、導入が可能なものとなった。

人々はサービス層に含まれる分野であれば、法令に規定されている範囲内において、誰でも新しい行政サービスを発案し、支持者を募り、全国に向けてサービスを展開することができる。

国民は立ち上がった行政サービスを選択し、そのサービスが要求する税金を払うことで、その政治サービスを受けることができる。また、任意のタイミングでサービスの変更を行うことができる。

但し、年金などの積立型のサービスでは、安い積立型から高い積立型へ移ろうとすると高額の差額の支払いが必要になる場合もあるので注意が必要である。

少数の意見が通る民主主義のパラドックス

民主主義は基本的に過半数に満たない意見が通ることが多い制度である。

たとえば日本のような選挙制度では、得票率が40%もあれば余裕を持って政権を取れてしまう。

アメリカのような完全な二大政党制での大統領選でも、得票率50%を切った大統領が誕生することは珍しくない。民主制は多くの場合、過半数に近い(もしくはそれを超える)人間の意思を無視することによって成り立っている。

民主制

これに対してオープン政治では多彩な政治サービスが存在し、そこから好きなサービスを個別に選択できる。そしてもし望むサービスがなければ自分で作ることもできる(もちろんその労力は並大抵のものではないが)。

オープン政治

そのため、オープン政治は理論上は支持率100%が実現できる仕組みだとされている。

オープン政治ディストリビューション

オープン政治が一般的なものになり、多彩な行政サービスが展開されるようになると、1つの問題が出てくる。

行政が細分化され、またそれぞれが複数の類似の機関を持つようになると、国民が適切な行政サービスを選択する作業が非常に煩雑になるのだ。

現在、巷には3000を超えるサービス区分が存在し、サービス機関の数は小規模のものを含めれば20万を超えている。これらの中から適切なサービスを調査し選択するのは至難の技である。

そこで利用されるのが、ディストリビューションと呼ばれる政治サービスパッケージである。

ディストリビューションは専門家が各行政サービスを比較して作り出したサービスの選択一覧表のようなもので、国民は公開・配布されているディストリビューションを選択するだけで、多彩な行政サービスを一括で受けることができる。

ディストリビューションは複数存在し、最低限のサービスで安いことを目指したものや、高額ではあるが手厚いサービスを受けられるもの、経営者や自営業者向けや、ドライバー向け、高所作業者向けなど、様々な立場の国民向けに細分化されたものが用意されている。

ディストリビューションを選んだ後に個別に一部サービスを変更して、より自身の環境にあった政治サービスの提供を望むことも可能だ。

後書き

今回は一般的な三層分離モデルとオープン政治について説明をした。

現状ではまだ課題も多い政治体系だが、今後、ディストリビューションの発達とともにより高いレベルの政治サービスが実現されることが期待される。

次回はオープン政治を実現する基板となっているOGAPI(Open Governments API)について説明する。